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2010 #02

 1月18日、都内のホテルで藤澤和雄調教師の1000勝を祝うパーティーが行われ、私も参加させて頂きました。今回と次回のコラムでは、その時の様子や、藤澤調教師と千代田牧場、そして私との浅からぬ関係とエピソードなどを書いてみたいと思います。題して、

“藤澤和雄調教師と千代田牧場・・・その1”

 六本木ミッドタウン内のホテルで行われたパーティーには、200人を超す関係者がお祝いに駆けつけました。会場に入ると、まずは入り口付近にどんと飾られた藤澤調教師の若い頃の写真が目を引きます。写真はそれだけではありません。1000勝のお祝いにふさわしく、100勝ごとの馬のゴール写真がその後に続きます。センスの良さが感じられる会場作りは、藤澤厩舎の有力オーナーの一人である山本英俊氏の事務所が手がけたもので、さすがだなと感心しました。会場入り口では、大きなパネルの前で出迎えて下さる藤澤調教師ご夫妻が、お祝いに駆けつけた一人一人と挨拶を交わし、一緒に記念写真を撮って下さるのですが、このとき既に藤澤調教師の目が潤んでいたように感じました。

 さて、左の写真の馬は、岡部幸雄騎手を背にしたシンコウラブリイ。藤澤調教師は指示でも出しているのか真剣な顔つきです。シンコウラブリイはアイルランド出身で、父はカーリアン、母はハッピートレイルズ。15戦10勝2着2回3着2回、うち6勝は重賞勝ちで、唯一の着外はOP戦カーネーションCの6着という、何とも素晴らしい成績を挙げた牝馬です。もちろん藤澤調教師に初重賞勝ちをプレゼントしたのはこの子です。そして、300勝目が千代田牧場の生産馬であるスルーオグリーン。600勝目も私どもの生産馬ボールドブライアンで、2003年にはG3東京新聞杯を勝ち、藤澤厩舎の重賞勝鞍63勝目の馬ともなりました。節目の馬が2頭もいたことは大変光栄なことでした。

 それらの写真を眺めながら、昔話に花を咲かせました。
「100勝目のゴダイバは(藤澤調教師の)お父さんの生産だよね!?」とか、
「そういえば、シンコウラブリイが勝つと、いつもオーナーが一席設けてくれたよね」とか。シンコウラブリイのオーナー安田修さんとはよくご飯を食べに行ったり、お酒を飲んだり、馬を通して、とても楽しい時間を共有させて頂きました。
「一緒にアイルランドに行ったのは15年以上前のことだよね!?」
そう、サドラーズウェルズの牝馬シンコウエルメスを買いに、安田オーナーとアイルランドまで私も一緒に行きました。海外のセリはチケットの手配からすべて私の仕事でした。栗田厩舎でG1高松宮記念を勝ったシンコウフォレストも当歳時にアイルランドの牧場で、安田オーナーと一緒に庭先で購入した馬です。

「最近、千代田の馬はうちに来ないけど、俺と専務は“マブダチ”だよな!」
といつものあけっぴろげな笑顔で言う藤澤調教師。いまだに親しみを込めて専務と呼んでくれるのですが、マブダチと思ってくれているとは嬉しい限りです。(じつは500勝調教師国枝師も同じく私のことを専務と呼びます。)
「俺は北海道にいた高校生の頃から専務のことは知っていたよ。千葉に馬バカな小学生がいるって聞いていた。」
つい最近、オーナーのご子息の結婚式の席で聞かされた言葉です。天下の藤澤調教師が、私が彼を知る以前から私のことを知っていて下さったなんて、それは驚きでした。


 以前、新宿のホテルを定宿にしていた頃、すし屋で一人夕食を取っていたときのことです。藤澤調教師から電話がありました(携帯電話の出始めの頃でした)。
「今どこにいる?一人でメシ食ってんじゃねえよ!天ぷら食ってるから来いよ!」
私はすし屋で出されたツマミを懐に、すぐに天ぷら屋に駆けつけました。お互いに一人だったのですね、寂しいことに・・・。
 人間ドックに一緒に行ったこともあります。府中の競馬の帰りに、山梨県にある温泉まで連れて行かれてのドックで、周りには何もありません。終了後は、高橋祥泰調教師と3人、成田まで戻って食事をしました。そこでもまた馬談義が始まり、閉店時間になっても誰一人帰る気配はありませんでした。ついには待たせていた藤澤調教師のタクシーが帰ってしまい、皆で大笑いしたこともありました。若かったのですね。

 藤澤調教師との付き合いは長く、しかもどの瞬間をとっても楽しく充実した時間だったと思います。モチベーションの高さと、その視点から展開される馬と競馬に関する話を共有してきたことが、今の自分の大きな財産になっていると、そう思うのです。藤澤調教師はそんな意味でも私にとって大切な“マブダチ”なのです

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 以前はクラシックなどあまり意識することなく、馬によっては4歳デビューだとか、ともかくゆっくり仕上げるとか、そんなところがあった藤澤さんですが、最近は
「定年も近いせいか、馬中心主義から馬主中心主義にしようかなっておもっているんだ」
と例の笑顔で冗談みたいに言い、さらに
「だから専務。牝馬じゃなくて、いい牡馬を持って来いよ。種馬にしてやるからよ」と言うようになりました。
 そういえば、ここのところ藤澤厩舎に千代田牧場の馬は預かって頂いていないかもしれません。でも調べてみたら、藤澤厩舎開業以来、千代田牧場生産馬は15頭で45勝していました。すごいでしょ!?先生、知ってましたか!?この事実!千代田牧場もリーディングに貢献していること、忘れないで下さいね。

 さて、あけっぴろげな笑顔が良く似合う藤澤調教師も、馬のことで涙を流すやさしい人。次回は、過去に預けた馬たちを通して垣間見てきた、彼のそんな人情家な一面を書いてみたいと思います。


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