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2010 #05

〜角居勝彦調教師は馬に携わる全ての人を大切にする人〜


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 今年の皐月賞、千代田牧場からはバーディバーディが参戦しました(馬主は里見恵美子様)。現時点ではこの子、どちらかといえばダート向きなので、ひたすら馬場状態の悪化を願い(ごめんなさい)、前日の雨には思わずニンマリしたのですが、悲しいかな、雪混じりのひどい雨がウソだったように、当日はカラッと晴天。念のため、中山競馬場の山田場長に「クラシックのダート変更とかありませんか?」なんて聞いてみましたが、もちろん即座に「あるわけないでしょ」。松岡騎手も馬も精一杯勝負したのですが、残念ながら12着という結果に終わりました。これからは得意のダートで一番を目指します。どうぞ応援よろしくお願いします。

 晴天に恵まれた皐月賞当日、見事な勝利でたくさんのお客様に祝福された馬は、栗東・角居勝彦厩舎所属のヴィクトワールピサでした。今回ご登場頂くのは、その角居調教師です。

千代田牧場スタッフと。満面の笑顔でVサイン

 国枝調教師のことを私が“国さん”と呼んでいることは前回お話しましたが、角居調教師のことはかなり長い間、“メガネ”と呼んでいました。「おお、メガネ、元気か?」という感じでしょうか。実は角居調教師、厩舎に入る前は静内の牧場で働いていたのです。だから、かなり以前からの知り合いというわけですね。その頃の彼は自己流の騎乗で草競馬に参戦したりしていました。確かキタノカチドキの牝馬に乗っていたかな?そこへ私が登場。彼に馬の乗り方などを教えて、すっかり友達になったのです。とはいえ、メガネをかけていたから “メガネ”と呼んでいただけで、当時は彼の名前など知りませんでした。

 その後、1986年に中尾謙太郎厩舎で調教助手となった“メガネ”は、そこでナリタハヤブサという名馬を担当することになるのです。1997年には同じ栗東の松田国英厩舎の助手に。そして2000年に調教師となりました。松田国英厩舎といえば、同じく助手だった友道康夫さんも一年遅れの2001年に調教師に。角居調教師よりも一足先に、アンライバルドで昨年の皐月賞を勝利しました。ちなみに松田国英調教師はダービー、オークス、桜花賞を勝っていますが、皐月賞は未勝利なんですね。きっとそのうち。

 さて、“メガネ”に再会したのは、彼が中尾謙太郎厩舎にいて、ナリタハヤブサを担当していた頃だと思います。その次に顔を合わせたのが、バーディバーディの池江泰郎調教師の息子さん、池江泰寿調教師の結婚式でのこと。「あ、“メガネ”だ」ということで名刺をもらったのですた。そのとき初めて“メガネ”の名前が角居勝彦だと知りました。彼が調教師試験に合格した2000年のことです。これ、ウソみたいな本当の話です。

 彼の初重賞勝ちは2002年、この年だけ中山競馬場で行われた東京スポーツ杯2歳ステークスでした。勝ったのはブルーイレヴン。このときの2着が前回のコラムに登場した国枝厩舎のタイガーモーションだったのです。

 もうひとつ、こんなレースもありました。あれは2006年。父ブライアンズタイム、母マジカルウーマン、千代田牧場生産で栗東・大久保龍志厩舎所属のナイキアースワークが、ユニコーンSを勝った後、大井競馬場でのジャパンダートダービーに挑戦したときのことです。もちろんナイキアースワークが1番人気、そして2番人気に角居厩舎のフレンドシップ(父フレンチデピュティ)が支持されていました。結果はフレンドシップが勝って、ナイキアースワークは4着でした。

お酒が大好きな角居先生。飲んでも馬のことを話すときは熱くて真剣。

 競馬場ではライバルでも勝負が終われば仲良し。レース後は、西麻布の寿司屋で大久保、角居両調教師と私の3人でお酒を飲んで盛り上がりました。そのとき、大久保調教師がこんな質問を。
「角居ちゃん、G1いくつ勝っているの?」
すると角居調教師、
「海外入れてもいいの?」
当時すでに13勝はしていたはずです。しかもその活躍は日本に留まらず、“メガネ”は“世界のメガネ”に成長していたのです。私にとっても嬉しい限り。ウォッカが勝った時も、牧場を訪ねてくれた彼とシャンパンで乾杯しました。

 こんなこともありました。私の所有馬ジャングルパワーが園田競馬で2003年の年度代表馬に選出されたときのことです。大久保、角居両調教師と私、そしてジャングルパワーを管理していた園田の田中範雄調教師の4人で食事をしました。その席で角居調教師は田中調教師にこう言ったのです。
「僕たちが(中央で)仕上げ切れなかった馬を、(地方で)立派に走らせてくれて、いつも感謝しています。ありがとうございます」 田中さんはその言葉にとても感動して涙ぐんでいました。“世界の角居”は馬に携わる全ての人間を思い、常に大切にしているのです。

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 角居調教師の素晴らしいところは、レースの成績だけではありません。誰にでも手を差し伸べる、とても優しく大きな心の持ち主、そんな人間としての魅力も彼の素晴らしさなのです。

 皐月賞当日、レース後にチャリティーイベントが行われました。売り上げは全て、障害者乗馬の普及と振興のために寄付されましたが、このチャリティーの企画、実行を陰で支えたのが角居調教師です。彼の厩舎で事務員として働く福留さんは、実は2年前まで坂口正大厩舎の調教助手でした。私の馬ピースオブワールドも福留調教助手の世話になりました。その彼が2年前、調教中の事故で下半身不随になってしまったのです。車イスでの生活を余儀なくされ、もう二度と馬には乗れない、そう思った彼は一度は自殺も考えたそうです。そんな彼に声をかけたのが角居調教師でした。

 今、福留さんは再び馬に乗るようになりました。体が不自由という理由で、いくつかの乗馬クラブでは断られましたが、角居厩舎に馬を預けているダノックス社の馬担当を勤める若原さんが、とある乗馬クラブを紹介してくれたのです。人と馬が繋ぐ縁が道を開いてくれた。福留さんは再び馬に乗るようになっただけでなく、角居調教師の協力を得て、障害者乗馬の普及にも力を発揮しています。

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 静内での出会いから、いろいろな馬を通して繋がってきた千代田牧場と角居調教師。これからもたくさんの生産馬とともに、良い関係がもっともっと深くなっていくことを希望しています。スマイルトゥモローの1歳は角居厩舎でお世話になります。G1獲りましょう!よろしく!

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 P.S 前々回のコラムで登場して頂いた藤澤和雄調教師。引退して乗馬となった昔の管理馬の所在を調べ、餌を届けているんですよ。
「専務、あの馬のこと覚えてる? 今ね、○○乗馬クラブで元気にしているよ!」
なんて話をよくしてくれます。
引退していった馬たちのことも忘れない藤澤調教師、障害者乗馬を支援する角居調教師・・・。競馬の成績だけでなく、本当に人として素晴らしい方々に恵まれたものだと思います。

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