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2011 #7

〜撮影も私の仕事・・・馬との呼吸を大切に〜

 人間のポートレートは左から撮影されたものが多いとのこと。なぜか?理由は顔の左側の方が表情が豊かだから、なのだそうです。それは右脳と左脳の役割の違いによるもので、右脳が五感で感じた感覚や感性を左脳に伝えてそこで処理するからだそうです。…なるほど。左側といえば馬の立ち写真も顔が左に位置するように撮影されています。でもこの場合、理由は右脳と左脳には関係なく、美しい姿勢の基本となるのが左前肢と右後肢、それらが立ち姿の軸となるからです。

 実際にはとても難しいものです。人間の場合は、言葉によって撮られる側が撮影者の意図を汲み取ってくれますが、馬は「そうそう、いい仔だね」なんて言ったって、動くときは動きます。物音に驚いたり、虫が飛んでいれば尻尾を振ったり脚を挙げたり。きちんと馴致ができていなければ、なかなかじっと立っていてはくれません。その上、光の具合から、背景の具合までばっちりのベストショットとなると、そうそう撮れるものではありません。

 たくさんの名種牡馬を撮影してきたカメラマンから聞いた話ですが、彼がイギリスに撮影に行ったときのこと。お目当てはシャドウェルスタッドにいる種牡馬Nashwanの撮影でした。Nashwanは1989年に英2000ギニーとダービーの二冠を含め、無敗のままGIを4連勝した名馬であり、ホエールキャプチャの祖母エミネントガールの父です。そのNashwanの立ち写真を撮るため、彼は何回も牧場側と交渉し、ようやく許可を貰って、イギリスに渡りました。当日は担当者の立会いの下、粛々と撮影が進み、Nashwanはしっかりと立ち姿を決めてくれましたが、天気があまりよくなかったのだそうです。そのため、撮影後に牧場が出した条件は「写真の出来をチェックして、その上で雑誌への掲載を検討させて頂きます」というもの。いやあ、厳しい!渡航費をかけてはるばる英国まで行ったのに、写真が使えるかどうかは牧場が決める、なんて。ですが実際、写真とはそれだけ重要なものなのです。ましてや相手は世界有数の種牡馬。たくさんの人の目に触れる写真は、その価値を損なうことのない最高のものでなければなりません。だから写真の出来にこだわるのです。

 世界有数の・・・ではありませんが、それは牧場の馬たちにとっても同じことです。牧場を訪れるのが難しい遠方のオーナーにとって、馬を選ぶ一番の判断材料となるのはその馬の立ち写真です。今月行われるのセリの当場のカタログも、左ページのほとんどのスペースを立ち写真に使っています。さて、これらの写真ですが、誰が撮っているのかご存知だったでしょうか。私、Photo by Masatake Iidaです。大げさにいえば、私の写真の腕が馬の評価に影響するということなんです。責任重大です。
 じつは先日、競馬場でカタログを見た方に褒められました。「え!この写真、飯田さんが撮っているんですか?」なんて。嬉しいですネ。

 もちろん写真そのものの腕はプロには敵いませんが、私の強力な武器は、馬たちとの信頼関係です。時には立っている馬の脚を持ち上げて、適切な位置に置き直したりもします。当歳馬でさえもそれを嫌がることはありません。それは取りも直さず、日頃の馴致がしっかりできているということです。
私が社長業とカメラマンを兼ねている為、撮影はその他の仕事の合間を縫って行います。尚且つ天候の問題もあります。「今から撮るぞ!」と決めるのはその時の状況次第。撮ると決まれば、スタッフも馬も即時にスタンバイできるのは、日頃からスタッフと馬との間に信頼関係が培われているからです。

被写体となる馬たちが良いからこそ、写真も良いものが撮れるのはもちろんのことですが、カタログでは写真の出来栄えも楽しんで見て頂ければと思います。

そして、写真でお気に召した馬がいましたら、ぜひセリ場で実馬を見にいらして下さいね。写真よりももっと素敵な馬に会えますよ。写真のほうが良かったら?そのときは、私の腕をちょっと褒めてやって下さい。

モデルはエターナルハピネス2011 (牡 父マンハッタンカフェ) 右は写真撮影のお供、鳴き馬君です。

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