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2013 #10

アメリカ競馬史探訪……キーンランド9月セールinレキシントン

 今年も暑い米国レキシントンでしたが、緑あふれる牧場の間をぬって車を走らせると、周囲の素晴らしい景観にうっとり、暑さも忘れます。北海道も素晴らしいですが、ケンタッキーの環境はやはり一枚上かなと思わずにはいられません。

 9月9日から12日間に渡って開催されたキーンランド・セプテンバーセール。今年は形式が大きく変わり、昨年は132頭にセレクトされたBook 1の上場頭数が875頭と大幅に増え、Book 1だけで4日間行われました。数いる中から自分の目で選びたいという購買者の要望に応える形で、終わってみれば18頭が100万ドルを超え、セリ全体の落札総額は2008年以降の最高額、平均価格は歴代3位を記録しました。高額馬の父はBernardini、Malibu Moon(いずれも父A.P. Indy)、Tapit、Tiznowなど不動の顔触れで、私もMalibu Moonの牝馬で欲しい馬がいたのですが、あっさりとミリオンを超えていきました。特に目立ったのがWar Frontの人気ぶり。米国だけでなく、欧州の芝でもGI馬を出したことが評価されているのでしょう。Danzigの底力ですね。

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 セリの合間には種牡馬見学へ。ウインスター・ファーム(WinStar Farm)は、昨年訪れたときにはまだ建設中だった新しい厩舎に、Distorted Humor、Tiznow、 Speightstown、 Bellamy Roadなどの22頭の人気種牡馬が勢揃い。壮観の一言です。エンパイアメーカーの2頭のGI馬Pioneerof the NileとBodemeisterを擁するほか、ニューヨークとフロリダにも5頭の種馬を所有する気鋭の牧場です。

  30年ぶりに訪れたのはダービーダン・ファーム(Darby Dan Farm)。車を降りてすぐに目に入ってきたのは、美しい芝の上に並ぶこの牧場を支えた名馬たちの墓石でした。

Ribo リボー(1952) 16戦全勝、凱旋門賞を連覇したイタリア生まれの名馬。1961年に輸入されました。

Graustark グロウスターク(1963)Ribo産駒。8戦7勝。8戦目のブルーグラスSで故障し(2着)引退。当時最高額のシンジケートにより種牡馬入りしました。

His Majesty ヒズマジェスティ(1968)Graustarkの全弟。母Flower Bowlは本馬を出産した朝、生涯を閉じました。ケンタッキーダービーとプリークネスSの二冠馬Pleasant Colony、日本に輸入されたタイトスポットなど多数の優れた後継種牡馬を送り出しました。

Roberto ロベルト(1969) 英ダービー優勝。 Dynaformer、Kris S.などの名種牡馬を輩出

 日本でRobertoといえばブライアンズタイムですね。1985年に当牧場で生まれ、G1フロリダダービーを勝ちました。ケンタッキーダービーは出遅れた上に脚を余して6着、プリークネスSは2着、ベルモントSは3着でしたが、その秋にもうひとつG1勝ちを加えて89年に引退。日本では今年4月にその生涯を閉じるまで、ナリタブライアンをはじめとするたくさんの名馬を送り出しました。

 どの馬もアメリカの競馬史に残るエピソードにあふれ、挙げればキリがありません。アメリカ競馬の歴史を彩るばかりではなく、日本の競馬にも多大な影響を及ぼし、世界の競馬史に偉大な足跡を残しています。リボーやロベルトの墓石を見た時の感激は、それだけで今回ダービーダンを訪ねて良かったと思わせるものでした。

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 ところで、なぜダービーダンを訪れたのかと言えば、姉のレディジョアンを繁殖として所有している縁で、現役時代からシェアを所有しているShacklefordが今年から種馬として繋養されているからです。160頭に種付けした彼は、現役時代そのまま、張切れんばかりのエネルギッシュな様子で現れました。彼のレースぶりは前に行って押し切るというもので、日本の競馬にも合うのではないかと思います。当場の繁殖にも、ミリオンギフト(母父サンデーサイレンス)をはじめ、サンデーの血をもつ3頭に付けました。


Shakcleford
(父Forestry 母父Unbridled)

 もう1頭、ダービーダンで注目したい種牡馬Tale of Ekati(テイルオブエカティ)に会ってきました。母サイレンスビューティーは父サンデーサイレンスの日本産馬です。祖母メイプルジンスキーはアラバマSとモンマスオークスの勝馬。初仔Sky Beautyが牝馬三冠を達成した翌年1994年のキーンランドの繁殖セールに上場し、270万ドルという高値で落札されました。落としたのはシンコウの冠名でたくさんの馬を所有していた安田修氏(2009年3月のコラム参照)。日本に輸入され、サンデーサイレンスを配合した初めての年に生まれたのがサイレンスビューティーです。1歳時にキーンランドジュライセールで100万ドルで落札され、アイルランドに送られました。競馬は3戦のみでしたが、繁殖として再びキーンランドのセリに登場。52.5万ドルで落札され、このとき受胎していたのがTale of Ekatiです。(ちなみにサイレンスビューティーの全妹が前出のShacklefordを種付けしたミリオンギフトです)


Tale of Ekati
(父Tale of the Cat 母父サンデーサイレンス)

 今回のセールのBook 1に上場した初年度産駒1歳は、日本の方が落札されたので、日本で走ることになりそうです。ディープインパクトやステイゴールドといったサンデー系の底力が欧州で活躍していますが、米国ではこの馬によって花開くことになるでしょうか?

 じつはTale of Ekati、供用初年度は病気のために一年、種付けを休んでいます。
「頚椎にバスケットが入っています」
 バスケットとはステンレススチールでできた短い円筒状のカゴのようなもので、脊髄が圧迫されることによって神経症状を呈した場合に、圧迫している骨を取り除いた後の空隙やドリルで開けた穴に挿入されます。バスケットの中に骨髄を注入し、そのまま骨化させて圧迫部位の椎骨を固定することにより治癒を図ります。
 当場の生産馬の中にも1頭、育成先のフロリダで首を傷め、最後の手段はこのバスケット手術と言われた馬がいました。症状が重く、手術を受けることなくこの世を去りましたが、この手術のことはずっと頭に残っていたので、今年は80頭に種付けしたというTale of Ekatiの話には驚きました。

 1935年にオハイオ州で始まったダービーダン・ファーム。まさに世界の競馬史を作ってきた牧場です。我々もその競馬史の中に名を刻むべく、より一層の精進を誓った9月のキーンランド訪問でした。

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ガリレオ牡馬をチェックするダービートレーナーY師。この馬には140万ドルの値がついた。N師にiPadのセリカタログ用アプリの使い方をレクチャーするT師
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